吉田 修一 「続 横道世之介」
「・・・・やっぱり血ってあんのかもね。この子の父親が食い意地張ってたのよ」
「そうなんだ。どんな人?」
「どんなって・・・・・・良く言って、クズ」
「悪く言えば?」
「死ね」
顔は笑っているが、目が笑っていないところを見ると、この話には深入りしない方が良いらしい。
という桜子のキャラも何とも言えない作品。
例えば、
「あっ、亮太、危ないから近づいちゃダメだぞ」
駆け寄ってきた亮太を抱き上げた隼人が、
「・・・・いいか、気をつけろよ。この白い煙を浴びたら、野良犬になっちゃうからな。ほら、世之介はもう煙を浴びたから、野良犬になっちゃってるよ」
と、また訳の分からない遊びを始める。
ただ、世之介もこの手の遊びが嫌いではないので、
「ウー、わん!わんわん!」
と、早速迫真の演技で二人を追いかけ回す。
さすがに亮太も最初は笑っていたが、世之介はいつまでも芝居をやめないし、隼人の演技もまた一切手を抜かないので、次第に本気で怖がってくる。
「やめてやめてやめて!どうやったら戻るの?ねぇ!どうやったら戻るの?」
隼人の腕の中で焦る亮太に、
「世之介の好きなものをあげれば、元に戻るかもしれない」と隼人。
「分かんない!分かんない!分かんない!」
「ちゃんと考えろ!考えないと、噛み殺されるぞ!」
「分かんない分かんない。・・・・あ、じゃ、お母さん!」
「ウ~~~~~~~ガウガウガウ!」
亮太の答えに、更に世之介が獰猛になり、
「ダメだ!もっと怒ったぞ」
と隼人が煽る。
「あ、プリン!牛乳プリン!」
「ウ~~~~~~~ガウガウガウ!」
「ダメだ。もっと違うもの!」
「じゃ、じゃあ、プチプチ!」
亮太の答えに、一瞬、世之介は首を傾げるが、
「ほら、こうやってプチプチするやつ!」
との説明に、ああ、梱包用の気泡緩衝材かと気づき、
「ウ~~~、ん?」
と一度迷い、
「ぐー、ぐるぐるぐる」と、その怒りを収めた。
というシーン。
例えば、
「おまえ、正月どうすんだよ?九州の実家に帰んのか?」
と隼人が聞いてくる。
「いやー、たぶん帰んないっすね」
「サクたちとどっか行くのか?」
「いや、別に予定ないです。隼人さんは?」
「俺は普通に寝正月」
「じゃ、俺もかな。・・・・・あ、ってことは、もう三年も正月に実家に帰らないことになるんだなー」
「それまでは帰ってたんだろ?」
「はい。学生んときは毎年。でももう、こっちの正月に慣れちゃったしな」
こっちの正月といえば聞こえはいいが、要は大晦日からコモロンと近所の居酒屋で飲み、年が明ければ、そのままのノリで近所の神社に初詣するだけである。
「世之介って、今、幾つだっけ?」
「先々月、二十五になりました」
「二十五か。ってことは、平均年齢まで生きるとしても、あと五十回しか正月ねえじゃん」
「五十回・・・・・。多くないっすか?」
「そうか?でもまあ、その辺は人生観の違いなんだな」
「というか、自分の正月をそんな風に数えられたの初めてですよ」
「普通数えるだろ?今月、休みあと何回かなーとか」
「あ、それは数えますけど」
「だったら、正月も数えろよ」
「いや、正月と今月の休みは、ちょっと違うじゃないですか」
「なんで?」
「だって、今月の休みを数えるのは、なんかこう希望に満ちてるけど、これから先の正月を数えるのって、自分の寿命を数えるみたいじゃないですか?」
「まあ、そう言われたらそうだな」
というシーン。
また、何回か描かれる、世之介と桜子のスーパーでの買い物のシーン。
そういう、何でもないシーンが、ものすごく印象に残る。
やっと読む機会に恵まれた一冊でした。
「・・・・やっぱり血ってあんのかもね。この子の父親が食い意地張ってたのよ」
「そうなんだ。どんな人?」
「どんなって・・・・・・良く言って、クズ」
「悪く言えば?」
「死ね」
顔は笑っているが、目が笑っていないところを見ると、この話には深入りしない方が良いらしい。
という桜子のキャラも何とも言えない作品。
例えば、
「あっ、亮太、危ないから近づいちゃダメだぞ」
駆け寄ってきた亮太を抱き上げた隼人が、
「・・・・いいか、気をつけろよ。この白い煙を浴びたら、野良犬になっちゃうからな。ほら、世之介はもう煙を浴びたから、野良犬になっちゃってるよ」
と、また訳の分からない遊びを始める。
ただ、世之介もこの手の遊びが嫌いではないので、
「ウー、わん!わんわん!」
と、早速迫真の演技で二人を追いかけ回す。
さすがに亮太も最初は笑っていたが、世之介はいつまでも芝居をやめないし、隼人の演技もまた一切手を抜かないので、次第に本気で怖がってくる。
「やめてやめてやめて!どうやったら戻るの?ねぇ!どうやったら戻るの?」
隼人の腕の中で焦る亮太に、
「世之介の好きなものをあげれば、元に戻るかもしれない」と隼人。
「分かんない!分かんない!分かんない!」
「ちゃんと考えろ!考えないと、噛み殺されるぞ!」
「分かんない分かんない。・・・・あ、じゃ、お母さん!」
「ウ~~~~~~~ガウガウガウ!」
亮太の答えに、更に世之介が獰猛になり、
「ダメだ!もっと怒ったぞ」
と隼人が煽る。
「あ、プリン!牛乳プリン!」
「ウ~~~~~~~ガウガウガウ!」
「ダメだ。もっと違うもの!」
「じゃ、じゃあ、プチプチ!」
亮太の答えに、一瞬、世之介は首を傾げるが、
「ほら、こうやってプチプチするやつ!」
との説明に、ああ、梱包用の気泡緩衝材かと気づき、
「ウ~~~、ん?」
と一度迷い、
「ぐー、ぐるぐるぐる」と、その怒りを収めた。
というシーン。
例えば、
「おまえ、正月どうすんだよ?九州の実家に帰んのか?」
と隼人が聞いてくる。
「いやー、たぶん帰んないっすね」
「サクたちとどっか行くのか?」
「いや、別に予定ないです。隼人さんは?」
「俺は普通に寝正月」
「じゃ、俺もかな。・・・・・あ、ってことは、もう三年も正月に実家に帰らないことになるんだなー」
「それまでは帰ってたんだろ?」
「はい。学生んときは毎年。でももう、こっちの正月に慣れちゃったしな」
こっちの正月といえば聞こえはいいが、要は大晦日からコモロンと近所の居酒屋で飲み、年が明ければ、そのままのノリで近所の神社に初詣するだけである。
「世之介って、今、幾つだっけ?」
「先々月、二十五になりました」
「二十五か。ってことは、平均年齢まで生きるとしても、あと五十回しか正月ねえじゃん」
「五十回・・・・・。多くないっすか?」
「そうか?でもまあ、その辺は人生観の違いなんだな」
「というか、自分の正月をそんな風に数えられたの初めてですよ」
「普通数えるだろ?今月、休みあと何回かなーとか」
「あ、それは数えますけど」
「だったら、正月も数えろよ」
「いや、正月と今月の休みは、ちょっと違うじゃないですか」
「なんで?」
「だって、今月の休みを数えるのは、なんかこう希望に満ちてるけど、これから先の正月を数えるのって、自分の寿命を数えるみたいじゃないですか?」
「まあ、そう言われたらそうだな」
というシーン。
また、何回か描かれる、世之介と桜子のスーパーでの買い物のシーン。
そういう、何でもないシーンが、ものすごく印象に残る。
やっと読む機会に恵まれた一冊でした。
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