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なんやかんや
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多和田 葉子 「献灯使」

小説の書き出しの言葉は「無名は」である。
無名は「むめい」と読む。
「無名は」って何?
このあと、こう続く。
「青い絹の寝間着を着たまま、畳の上にぺったりと尻をつけてすわっていた」
「無名」って名前なのか。
しばらく読み進めると、「義郎(よしろう)は毎朝、土手の手前の十字路にある「犬貸し屋」で犬を一匹借りて、その犬と並んで三十分ほど土手の上を走る」と続く。
「犬貸し屋」?
さらにもう少し読むと、こう続く。
「・・・そのように用もないのに走ることを昔の人は「ジョギング」と呼んでいたが、外来語が消えていく中でいつからか、「駆け落ち」と呼ばれるようになってきた。「駆ければ血圧が落ちる」という意味で初めは冗談で使われていた流行言葉がやがて定着したのだ。無名の世代は「駆け落ち」と恋愛の間に何か繋がりがあると思ってみたこともない。」と続く。
この段階で、この話がいったいどういう方向に進むのか全く想像もつかなかったが、なんだかとてつもなく面白いような(わっはっはではない)気がした。
・・・で、読み終えて、何とも言えず面白かった。
面白いというか、実は、怖いのです。

表題作以外にあと3つか4つぐらいあったと思う(忘れかけています)
で、私としては、最後の一つがまたまたよかったです。
というか、これもやっぱり怖いのです。
これは戯曲なのか、いろんな動物が出てきまして、人間だけが絶滅していて、動物たちがそのことも含めてあれこれ話をしているのです。
ほら、怖いでしょう。

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何とか間に合いました。明日返却。

川越 宗一「熱源」


皇帝暗殺計画に関わったとしてサハリンの刑務所に送られたポーランド人、ブロニスワフ・ピウスツキ。
生きる希望を失いかけたブロニスワフは、サハリンで少数民族のギリヤークと出会い、民俗学の道へ進み始めることになります。
故郷を奪われたブロニスワフはアイヌの女性と結婚し、ポーランドとサハリンという二つの故郷をもつことになるのですが。。

日本初の南極探検隊に参加した山辺安之助(日本名)こと、樺太アイヌのヤヨマネクフ。
学校では、立派な日本人にならなくてはならないと言われる。
野蛮だ、未開だという言葉で押さえつけられるアイヌたちの苦悩。
アイヌがアイヌであることを誇りに思うことを、どうして見下さなくてはいけないんだろう。
ヤヨマネクフはなぜ南極探検に参加したのか、その理由を知る時、胸がいたみます。
それが文明なのか、文明って何なのだ、読みながら、何度も思いました。

終盤、歴史の流れから、大隈重信とか二葉亭四迷とか金田一京助とかがちらちらっと出てきます。
場面的にはほんの少しなんですが、時代というものを思い起こさせるのに大切な一部でした。

「生きるための熱の源は、人だ」

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小川 哲 「嘘と正典」

直木賞候補作で、検索したら誰も予約してなかったのですぐに借りておき、年末から少しずつ読みました。
短編集でした。
どの作品も、何とも言えない面白さがありましたが、「時間」がいっぱい出てきて、たまにこんがらがりました。
一番初めの話は、馬が出てくる「ひとすじの光」というタイトルで、やけに馬の話が詳しく出てくる。
馬のことは全然詳しくないので、スペシャルウィークとか言われてもわからないのですが、それを知らなくても、何とも言えない味わいに辿り着きました。
「ムジカ・ムンダーナ」の、取引を音楽でするというその設定、「最後の不良」では、流行そのものがなくなった世界という設定、こういう設定そのものが抜群に面白い。
最後の「嘘と正典」では、スパイ合戦でKGBとかCIAとか、この人は誰だったっけ?と何度も情けない思いをしたし、「正典って何よ」「アンカーって何よ」「守護者って何よ」の連続で、「共産党宣言」とか「万有引力」とか「ディケンズ」とか、なんかめちゃ難しそうな話に思うし、実験がどうの、分子がどうのなんて辺りはほとんどわからないのでサクッと読み進めましたが、共産主義をなかったことにする」ために諜報員を使うという設定、面白くないわけがない。
印象に残る一冊でした。

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恒川光太郎  「滅びの園」
芦沢央 「罪の余白」
奥田英朗 「最悪」

以上の3冊まで、去年に読み終えた本です。
恒川光太郎「滅びの園」は、SFみたいでした。
芦沢央 「罪の余白」は、「カインは言わなかった」の芦沢さんのデビュー作だそうです。
奥田英朗「最悪」は、かなりの長編でした。
なんの関係もない3人が出てくるのですが、中でも、小さな鉄工所の社長が精神的にどんどん行き詰っていく過程がなかなかのものでした。
長い話だったので結構しんどかったのですが、3人が実に変に関わってしまうことになるシーンに行きつくのには、どうしてもあの長さになったのだと思います。
この3冊の中では「最悪」が一番よかったです。

今年読んだ本は次からになります。

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恩田 陸 「木漏れ日に泳ぐ魚」

「舞台は、アパートの一室。別々の道を歩むことが決まった男女が最後の夜を徹し語り合う。初夏の風、木々の匂い、大きな柱時計、そしてあの男の後ろ姿―共有した過去の風景に少しずつ違和感が混じり始める。濃密な心理戦の果て、朝の光とともに訪れる真実とは。」
「残りものには、過去がある」の後に読みかけていた本があったのですが、後から借りてきたこの本、冒頭から気を持たせる書き方になっていて、一気読みになってしまいました。
この男女の関係がわかる時、物語の方向はうっすら見えてしまいます。
それでも、「あの男」のことがあり、記憶が少しずつ蘇っていくにつれ、問題は何なのかがだんだん変わっていく面白さには、ぐいぐい引き込まれました。
話は一晩のことですが、犯人捜しというわけではない。
ラストは、どんでん返しと言えばどんでん返しです。
でも、なんといえばいいのだろう、若干あっさりしすぎ?
千明の気持ち、よーくわかるだけに、ここがもっとインパクトが欲しかったというか、そんな感じ?がしたのでした。







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中江 有里 「残りものには、過去がある」

ある結婚式の披露宴に出席した人々を描いた6つの短編集。
一つ目は花嫁のレンタル友人が語り手で、この語り手自身の心のわだかまりが消えたことで変わったであろうそのスピーチが、とてもよかった。
いくつ目かで花嫁が語り手になる話もあり、レンタル友人のスピーチなのに感激したことも書かれていて、うまいなあと思った。
どの語り手もそれぞれに過去、傷があるのだけれど、披露宴を通し、心が癒されていく。
そして、最後の語り手のなんと魅力的なこと。
それぞれに暗い過去を書きながら、書き方には悲惨さとかしつこさがなく、読後感がよくて好きな作品の一つになった。



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川瀬 七緒 「メビウスの守護者」

「東京都西多摩で、男性のバラバラ死体が発見される。岩楯警部補は、山岳救助隊員の牛久とペアを組み捜査に加わった。捜査会議で、司法解剖医が出した死亡推定月日に、法医昆虫学者の赤堀が異を唱えるが否定される。他方、岩楯と牛久は仙谷村での聞き込みを始め、村で孤立する二つの世帯があることがわかる。息子に犯罪歴があるという中丸家と、父子家庭の一之瀬家だ。──死後経過の謎と、村の怪しい住人たち。残りの遺体はどこに!」

虫のことを証拠として出すために徹底的に調べる赤堀さんの姿は、今回も面白かったです。
というか、あまり想像しながら読むと気持ち悪いので、サクッと読まなければいけないのですが、それが気楽でいいですね。
終盤、犯人がわかって振り返ってみれば、序盤で死体の指が切り落とされていることが書かれてあったんだから、よく考えれば想像はついたなとも思いましたが、それはそれとして、やっぱり読みごたえはありました。
岩楯警部補が赤堀さんのことを心配してビビってたところもなかなかよかった。
牛久クンの話の中で、滑落して骨折し、動けなくなった遭難者を助けに行った時のことがありましたが、あの話も、ううっとなりました。
生きてる人であっても、怪我をしているということは、それだけ死に近いということなんですね。。
毎回思うことですが、死体と関わるということの大変さを嫌というほど知らされました。



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読み始めたのは、法医昆虫学シリーズ。
これを読みながらお弁当を食べるのはちょっと勇気がいる。
しかし、赤堀が出てきて「これはウジに二世代以上の発育期間があったことを意味しますから、死後十日というのはあり得ない」なんて出てきたら、わくわくせずにいられないvv

今日読んでいたら、こんな場面があった。
現場で一緒調べている、とても声のいい牛久に、赤堀が「ちょっと、このセリフを言ってみてくれない?『ぼくを恋人と呼んでください。さすれば、今日からはもうロミオではなくなります』。絶対にキマるはずだから」というと、「何を思ったのか律儀に劇の台詞を口にした。しかも、わりと感情をこめているのが理解できない」と岩楯が思うシーン。
この何でもないというシーンに笑えてしまって、気分もスッキリしたもんだ!


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中山 七里 「アポロンの嘲笑」
「東日本大震災後の混乱の中で起きた一件の殺人事件。被疑者の邦彦、被害者の純一はともに原発作業員、同僚で親友です。移送中に逃走した邦彦は、命がけである場所を目指します。逃げる者、追う者。極限状態に置かれた人間の生き様を描く、異色の社会派サスペンス」
東日本大震災、原発事故ということで、重みのある作品でした。
当時のテレビ映像も何度も蘇ってきました。
作品の中でも何度も余震のことが出てきて、読んでいるだけでもその怖さに震えました。
犯人の加瀬がなぜ原発を目指しているのか、なぜ公安が動いているのか、東日本大震災で身動きの取れない警察や加瀬を追う仁科の葛藤、原発で働く人たちの思いやそこで働く過酷さ。
阪神淡路大震災が加瀬に及ぼしたもの。
その過酷な人生。
物語のそこここに、痛烈な批判が込められています。
ラストは出来すぎのドラマみたいな気もしましたが、関わった人達の思いが深く伝わってきました。







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貫井 徳郎 「罪と祈り」

この本を受け取りに行ってタイトルを見た時、「わーしんどいかも」と、正直ちょっと引いていたのだけれど、読みだしたら一気でした。
貫井さんの直近の思い出と言えば「壁の男」。
ラストで衝撃を受けたのを覚えている。
「慟哭」もそうだったかな。

さて、今回の作品。
「元警察官の辰司が、隅田川で死んだ。当初は事故と思われたが、側頭部に殴られた痕がみつかった。真面目で正義感溢れる辰司が、なぜ殺されたのか?息子の亮輔と幼馴染みで刑事の賢剛は、死の謎を追い、賢剛の父・智士の自殺とのつながりを疑うが…。隅田川で死んだふたり。そして、時代を揺るがした未解決誘拐事件の真相とは?辰司と智士、亮輔と賢剛、男たちの「絆」と「葛藤」を描く、儚くも哀しい、衝撃の長編ミステリー! 」

地上げ屋に苦しめられる人々。
何もしてくれない警察。
それに対する憤りはよくわかる。
けれど、彼らの選んだ道には、あまりにも惨い結果が待ち受けていました。
子どもが可哀そうすぎる。。。
第三者の立場としては、それはダメだろうと普通に思えることでも、当事者にとっては、その時はそうすることしか思い浮かばないような状況はよくあると思う。
そこが悲しいところだ。
事が起こってから、漸く自分たちの愚かさに気づいた彼らの救われなさは何とも言えず、最後まで苦しく悲しい話でしたが、どうなるのかなと先が気になって仕方なかったです。
ただ、ラストはちょっと軽すぎるかなあと。

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